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2024/07/20

Dawnbreed - 『LUXUS (7")』(1998)

Dawnbreed - 『LUXUS (7")』(1998)

・Side A - Astronaut
・Side B - Rollercoaster

Stickfigure Recordings ※(Atlanta, US)
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 ベルリン以南約530 km、ベーブリンゲン。

 第二次世界大戦時、郊外に陸軍演習地と実験場が敷かれたことで結果として多くの非戦闘員が命を、子或いは親を、家を失った。
軍需規格品を手掛けた企業の重要拠点が多く残り、そのためにやがて自動車産業と情報産業が経済活動の中心となっていったこの居心地の悪そうな街において、Dawnbreedというバンドはパンク・ロック・バンドであろうとした。よりによってScreamo / Emoを演奏するバンドとして。

 '98年の本作7インチ『LUXUS』は米アトランタStickfigure Recordingsのレーベル1作目であり、以後、'00年に最終シングルを残してバンドは活動を終える。

 歪で複雑な楽曲構成を従えるギター、硬質だが有機的で、清涼感が無愛想に鼓膜を掠め続けているようなコード・ワーク。絶妙で偏執的ですらあるバランス感覚のサウンドデザインはある意味でドイツ的、"ゲルマン人的"である。

 他方、96年より並行して活動したMonochromeのメンバーは殆どがDawnbreedと同一であったが、以降14年間で5枚のアルバム、数枚のE.P.をリリースすることとなる。


 1998年━━ FugaziEnd Hits』, Forty Nine Hudson『For Weeks At a Time』(Music Fellowship), Four Hundred Yearsの2nd、Envy『From Here to Eternity』, COWPERS『LOST DAYS』, 既に解散していたcaP'n Jazzamerican footballセルフタイトルのE.P.に先行して編集盤を出したのが98年だ。

 翌年99年にはbloodthirsty butchers『未完成』, Yaphet Kotto『The Killer Was In The Government Blankets』, スペインではBCore Discから a room with a view 1st『Addiction of Duplicities』……と続く。
 このように挙げればキリがなく、同国ドイツにおいては結成以来ハードコア・パンク・バンドであった the Notwist が新たな作風で『Shrink』を発表したのがこの祝福されし98年という年であった。('99:木下理樹『TEENAGE LAST』, Syrup16g『Free Throw』……』

 '44年初夏━━秘密の手紙。40年後のアメリカ・ルイビルに顕現する史上最高のパンク・ロック・バンドのその1つは、読まれるはずのなかった近親相姦者の恋文の中で自身に相応しい名を見出し選び取るだろう。認識されざる者、赦されざる全ての魂のために自己破壊と再生を繰り返すことがパンク・ロックのドグマ、奇跡にしてその業である。
 Dischord Recordsとそれに連なる激情ハードコアの系譜。海峡9kmを超えようとも東京がついに獲得することのなかった極寒の抒情。ドイツ前衛、プログレ、クラウト・ロックとノイエ・ドイチェ・ヴェレ。Dawnbreedというバンドはそのいずれにもついに似てなどいなかった。郊外。陸軍基地の暗黙のうち戦争に踏みつけられ、かつて非戦闘員が無惨に死んでいったあの街には、殺人者達が逃げるように押付けていった重工業と産業機械、自動車、その無気質な営みに
宿命づけられたガラクタの沈黙とパンク・ロック以外のものなど決して存在し得なかった。

 東西を20世紀のあとも半永久的に隔てるはずであった壁の崩壊から約1年9ヶ月、Nirvanaが破壊し尽くした境界線のその果て━━インディーロックの預言者の愚かで悲劇的な決定論的自死、大観衆の熱狂を臨む聖丘の上で、鉄の窓帷に包まれ抱き上げられたオルタナティブ・ロックは死産であった。死に続けている。世紀末までの6年間、無名で無限の名盤が生まれ続けたにも関わらず。
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- Dawnbreed - 『LUXUS (7")』
VINYL
Bandcamp (DL)

- Stickfigure Recordings
HP / Release
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